紫式部の源氏物語とはどんな内容?いつ書かれた?なぜ世界中で人気があるの?
紫式部(生没年不詳)は、平安時代中期に活躍した歌人・作家です。
彼女の詠んだ歌が百人一首に収録されているため、その名前を聞いたことがある人も多いでしょう。
そんな紫式部の代表作品に『源氏物語』というものがあります。
この『源氏物語』とは、どのような内容だったのでしょうか?
また、いつ書かれたものなのでしょうか?
この記事では、紫式部の『源氏物語』について簡単に解説していきます。
目次
紫式部の源氏物語はどんな内容?
紫式部の源氏物語は、世界最古の長編小説だと言われています。
それでは、その内容はどのようなものだったのでしょうか?
ここでは、紫式部の源氏物語について簡単に解説していきます。
紫式部の源氏物語はいつ書かれた?
『源氏物語』は、平安時代に書かれた世界最古とも言われている全54巻の長編小説です。
およそ70年間に及ぶ時代について描かれており、その文字数はなんとおよそ100万字にまでのぼります。
内容としては、主人公・光源氏と多くの女性たちとの恋愛模様や、出世話などが書かれています。
登場人物は500人ほどで、それぞれの心情に即した和歌が795首詠まれており、紫式部の才能が存分に発揮されていると言えるでしょう。
執筆期間については、夫・藤原宣孝に死別した1001年(長保3年)から、彰子のもとに出仕した1005、1006年(寛弘2、3年)の間だと推定されていますが、正確には判明していません。
書き始めた頃は、仲間内で批評し合う程度のものでした。
というのも、当時、紙は非常に貴重なもので、そう簡単に手に入る物ではなかったのです。そのため、紙が手に入ればその都度書く、程度のものでした。
長編にしようとしていたわけではなく、「枡形本」という小さな冊子にして書いていたそうです。
しかし、次第にその評判が広がっていき、強力な紙の出資者を手に入れ、長編小説になっていきました。
紫式部の源氏物語は3部構成
紫式部の源氏物語は、編成としては3部構成になっており、
- 第一部(1〜33巻):光源氏の女性遍歴や成功の物語
- 第二部(34〜41巻):栄華を極めた光源氏の転落・最後の物語
- 第三部(42〜54巻):光源氏の息子・薫を中心とした物語
以上のように分かれています。
ずっと光源氏の話だと思われがちですが、実は、後半は息子の話となっているのです。
以下、それぞれの巻のタイトルです。
【源氏物語:第一部】
1、桐壺(きりつぼ)
2、帚木(ははきぎ)
3、空蝉(うつせみ)
4、夕顔(ゆうがお)
5、若紫(わかむらさき)
6、末摘花(すえつむはな)
7、紅葉賀(もみじのが)
8、花宴(はなのえん)
9、葵(あおい)
10、賢木(さかき)
11、花散里(はなちるさと)
12、須磨(すま)
13、明石(あかし)
14、澪標(みおつくし)
15、蓬生(よもぎう)
16、関屋(せきや)
17、絵合(えあわせ)
18、松風(まつかぜ)
19、薄雲(うすぐも)
20、朝顔(あさがお)
21、少女(おとめ)
22、玉鬘(たまかずら)
23、初音(はつね)
24、胡蝶(こちょう)
25、蛍(ほたる)
26、常夏(とこなつ)
27、篝火(かがりび)
28、野分(のわき)
29、行幸(みゆき)
30、藤袴(ふじばかま)
31、真木柱(まきばしら)
32、梅枝(うめがえ)
33、藤裏葉(ふじのうらば)
【源氏物語:第二部】
34、若菜(わかな)
35、柏木(かしわぎ)
36、横笛(よこぶえ)
37、鈴虫(すずむし)
38、夕霧(ゆうぎり)
39、御法(みのり)
40、幻(まぼろし)
41、雲隠(くもがくれ)
【源氏物語:第三部】
42、匂宮(におうのみや)
43、紅梅(こうばい)
44、竹河(たけかわ)
45、橋姫(はしひめ)
46、椎本(しいがもと)
47、総角(あげまき)
48、早蕨(さわらび)
49、宿木(やどりぎ)
50、東屋(あずまや)
51、浮舟(うきふね)
52、蜻蛉(かげろう)
53、手習(てならい)
54、夢浮橋(ゆめのうきはし)
紫式部の源氏物語のあらすじは?主人公は誰?
源氏物語の第一部・第二部の主人公は光源氏です。
また、第三部の主人公は光源氏から代わって、息子の薫となっていきます。
それでは、それぞれの部のあらすじをご紹介していきます。
【源氏物語:第一部】
第一部は、主人公・光源氏の愛の物語です。
桐壺帝の子・光源氏は、幼少期に亡くした母に似ている後宮の藤壺に恋してしまいます。そして、光源氏と藤壺の間に子供ができるのですが、それは桐壺帝の子として育てられました。
その後も、光源氏は葵上と結婚したり、空蝉、夕顔、六条御息所と恋をしたり、非常に多くの恋愛物語を紡いでいきます。
一度は政敵のせいで京を追われ、須磨での生活を余儀なくされますが、また京に戻ってからは華やかな生活を送ったのでした。
色々な女性との恋愛エピソードが描かれているのが第一部です。
【源氏物語:第二部】
第二部は、華やかな第一部とは一転し、光源氏の苦悩する世界が描かれています。
時の朱雀院が娘の女三宮を光源氏に預けたため、光源氏の最愛で正妻の立ち位置にあった紫の上が病に伏してしまうのです。
さらに、女三宮は貴族の柏木と恋仲になり、子供を産みます。そのことを知った光源氏は、過去の自分の行いを反省することとなるのです。
そして、ついには紫の上が亡くなってしまったことをきっかけに、光源氏は出家することを決心しました。
このように、光源氏の苦悩や死ぬまでが描かれているのが第二部です。
【源氏物語:第三部】
第三部は、光源氏の死後の話で、舞台は宇治へと移ります。
ここでは、光源氏の子や大君中君の姉妹など、彼らを取り巻く女性との関係と苦悩が、光源氏のときと同じように展開されていきます。
紫式部の源氏物語の人気の理由は?
紫式部の源氏物語は、非常に幅広い層から支持され、古典といえば当たり前に出てくるほどの定番となっています。それでは、なぜそんなに人気があるのでしょうか?
源氏物語の人気の理由は主に3つ挙げられます。
- 「時代や文化を超えた、人間の普遍心理が描かれている」
- 「時代背景を知ることで、日本の歴史や文化を知ることができる」
- 「原文以外にもダイジェスト版やパロディ本が発行され、それぞれの時代を映し出している」
それぞれを詳しく解説していきます。
・時代や文化を超えた、人間の普遍心理が描かれている
光源氏をはじめとした登場人物たちが、物語が進むに連れ成長し、変化していきます。
その様子は、時代や文化を超える「人間の本質」が描かれていると言えるのです。
このことが、多くの読者の共感を呼び、源氏物語の大きな魅力となりました。
・時代背景を知ることで、日本の歴史や文化を知ることができる
源氏物語は、非常に昔の作品なので、正しく理解するためには当時の様子を知る必要があります。現代とは違う、平安時代の生活習慣や政治、思想などを把握することによって、より深く作品を知ることができるのです。
そして、それは源氏物語を通して、日本の歴史や文化を知ることにつながるのです。
・原文以外にもダイジェスト版やパロディ本が発行され、それぞれの時代を映し出している
源氏物語は、原文以外にも非常に多くのダイジェスト版やパロディ本が発行されてきました。
それは、それぞれの時代に即したものになっており、それ自身が当時の日本の様相を映し出しているのです。
平安時代だけではなく、様々な時代を知ることができるのも源氏物語の魅力と言えるでしょう。
源氏物語に関する様々なエピソードをご紹介
紫式部の源氏物語は、有名であるがゆえに、様々なエピソードが存在します。
ここでは、紫式部の源氏物語にまつわるエピソードを簡単に解説していきます。
紫式部は源氏物語を石山寺で書き始めた?
紫式部が源氏物語を書いた時期や場所は諸説存在しています。
その中でも有名なのが、石山寺で書き始めたという説です。
「石光山」の山号を持つ石山寺(滋賀県)は、真言宗の大本山です。京都の清水寺、奈良の長谷寺と並び「三観音」の1つにも数えられています。
そんな石山寺に、紫式部は7日間の参籠をします。
目的は、時の中宮から新しい物語が読みたいとリクエストされたため、それを作ることでした。
石山寺にて、構想を考えながら、琵琶湖を眺めている際、湖面に映える十五夜の名月を見て、
「都から須磨の地に流された貴公子が、月を見て都を恋しく思う」場面を思いついたのです。
そして、「今宵は十五夜なりけり」と書き始めたのが、源氏物語の始まりだったと言われています。
この伝承は、『石山寺縁起絵巻』や源氏物語の古注釈書『河海抄』をはじめとして、様々な書物に記されています。
紫式部は源氏物語を書いていたから宮仕えになった?
紫式部は、夫との死別の悲しみを紛らわせるために源氏物語を書き始めたとする説が有力で、つまり宮仕えする前から書いていたとされています。
元々は、趣味程度のもので、紙がもらえたら書き、仲間内で批評し合う、その程度のものでした。
しかし、源氏物語はそのクオリティの高さから、次第に様々な場所で噂されるようになります。そして、その評判は藤原道長の元まで届きます。
藤原道長は、その源氏物語を読み、紫式部の才能に惚れ込み、自分の娘の家庭教師として雇用するのです。
つまり、紫式部は源氏物語を書いていたからこそ、宮仕えのチャンスを掴み取ったと言えます。
さらに、藤原道長は源氏物語を完成させるための支援を惜しみませんでした。
貴重な紙を出資してくれるパトロンを手に入れた紫式部は、無事に源氏物語を完成させたのです。
紫式部の源氏物語は世界中で人気がある?
源氏物語は、世界で約30以上の言語に翻訳されています。
英語、イタリア語、中国語、ドイツ語、フランス語などのほか、アラビア語やタミル語、タイ語などにも翻訳されているのです。
それほどまでに、源氏物語という作品は国を超えて人気がある作品だということがわかります。
人気の理由としては、やはり時代や文化を超えた人間の普遍心理や、日本の歴史についての描写が細かくされている点が挙げられるでしょう。
紫式部の源氏物語が影響を与えた作品は?
紫式部の源氏物語は、世界最古の長編小説であり、日本文学の源流とも言える作品です。
そのため、後世に出た作品の中には影響を受けたものが多数あるのです。
ここでは、紫式部の源氏物語が影響を与えた作品を簡単に解説していきます。
源氏物語が影響を与えた作品:『狭衣物語』
狭衣物語(さごろもものがたり)は、正確な作者はわかっていませんが、11世紀後半に成立した物語で、帝を血縁に持つ狭衣が主人公です。
源氏物語の光源氏同様、様々な女性と恋に落ちていく様子が描かれています。
このことからも明らかに源氏物語を意識した作品であるということがわかります。
しかし、女性の末路や主人公の性格などはかなり違っており、作品全体が暗い雰囲気に覆われているのが特徴です。
源氏物語が影響を与えた作品:『浜松中納言物語』
浜松中納言物語は、菅原孝標女が書いた(異論はある)と言われている、平安時代後期に成立した物語で、後期王朝物語の一つです。
源氏物語や狭衣物語同様、主人公が女性と恋に落ちていく話となっています。
しかし、前者と違い、唐へ渡って物語が繰り広げられたり、輪廻転生というテーマが色濃かったりと、独特の内容も持ち合わせています。
源氏物語が影響を与えた作品:『豊穣の海』
近代文学では、三島由紀夫の 『豊穣の海』などが影響を受けています。
こちらは、厳密に言うと浜松中納言物語に影響を受けた作品なのですが、浜松中納言物語は源氏物語の影響を受けているので、間接的に源氏物語の影響を受けていると言えるでしょう。
また、この頃には源氏物語の現代語訳が盛んになり、与謝野晶子や玉上琢弥、谷崎潤一郎、
円地文子などといった文学者や研究者たちが現代語訳を完成させています。
源氏物語が影響を与えた作品:『細雪』
谷崎潤一郎は、実は三回も源氏物語を現代語訳していました。
そして、その度に源氏物語ブームを起こしてきたのです。
そして、彼自身の作品にもその影響を受けていると言われるものがあります。
その代表作が『細雪』です。
こちらは、光源氏と藤壺の関係性と重なるようなテーマが潜んでいます。
まとめ:紫式部の源氏物語は、世界中の人々から愛される世界最古の長編小説だった
紫式部の源氏物語は、世界最古の長編小説であり、世界各国の言葉で翻訳されているくらい世界中の人々から愛されている作品でした。その人気の理由は、時代や文化を超えた人間の普遍心理や、日本の歴史についての描写が細かくされている点が挙げられるでしょう。
今回の内容をまとめると、
- 紫式部の源氏物語は、世界最古の長編小説
- 紫式部の源氏物語は、三部構成の全54巻(文字数はおよそ100万字)
- 紫式部の源氏物語は、およそ70年間に及ぶ時代について描かれている
- 紫式部の源氏物語の内容は、主人公・光源氏と多くの女性たちとの恋愛模様や、出世話などが書かれている
- 紫式部の源氏物語は、世界で約30以上の言語に翻訳されている
源氏物語の登場人物は500人。そして、それぞれの心情に即した和歌が795首も詠まれています。これが紫式部1人で考えられたものだとしたら、本当に色々な感性を持ち合わせていた女性だったのだなとわかりますね。